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誤解の多い、新設された「空き屋に係る譲渡所得の特例」の背景事情

(2016年04月05日)

本年4月1日から空き屋を減らすための「空き屋に係る譲渡所得の特例」制度がスタートしました。なにせ今や空き屋は820万戸になったというのです。
新制度を一言でいうと、「相続が発生した一人住まいである親の家を売却した場合の譲渡所得には、3,000万円の特別控除を認める」というものです。

目的は空き家減らし。空き家発生の原因の多くは、親が遺した家を「とりあえず残す」ことにあるようです。そこで利用する当てのない家の即時売却を推進しよう、というわけです。

この制度の狙いやしくみは面白いと思います。そして以下に示す主な摘要要件は、狙いが空き家減らしにあることを明白に示しています。

・親の自宅が相続開始で空き家になり、売却時まで空き家を維持していること
・昭和56年5月末以前に建てられた古い戸建て住宅であること(マンションは対象外)
・相続開始から3年後の日の年末までの売却であること
・売却額が1億円以下であること(資産家優遇との批判の防止策)


このように制度自体は悪くないのですが、税制を斜に構えてみてしまう性癖のある筆者は、ついこの制度についてもあれこれ言いたくなってしまいます。

まず空き家数820万戸という統計数です。いかにも古い空き家が820万戸あるように思いますがそうではありません。この空き家の半数以上は賃貸住宅の空室です。
ちなみにワンルーム10部屋を有する一棟のアパートの戸数は10戸とカウントします。1戸ではありません。

この他の空き屋には、売却用の家屋、2戸以上を有する別宅等もあり、マンションを除く本来の戸建ての空き家は200万戸ぐらいではないでしょうか。それでも相当の数であることは事実ですが。

一方、火事や防犯の観点から空き家が問題となるなら、「家を取り壊して更地にすればいいではないか」という考えがあります。しかしこれは、よく言われているように「更地にすると固定資産税が6倍に跳ね上がるから駄目」、ということになります。

固定資産税は、住宅が建っている200㎡までの敷地の税額は6分の1(200㎡超部分は3分の1)にするという特例があります。更地にするとこれが適用されなくなってしまうからです(なお併課されている都市計画税を考慮に入れれば5分の1というべき)。
 
ここで問題なのは、「なぜ住宅用地の固定資産税は5分の1(都市計画税を含む)。なのか」という話です。一般の住宅用地(土地だけ)の固定資産税額は5~10万円ぐらいでしょう。すると用途がそれ以外(更地、店舗・倉庫等の敷地)であれば、その税額は25~50万円になります。特例の適用がなければ固定資産税はメチャ高いわけです。

その理由は、ズバリ税率があまりに高いことにあります。税率は制度発足以来ほぼ1.7%(都市計画税の0.3%を含む)です。そして税法は「土地の時価×税率」で税額を算出せよと定めています。

では世田谷区に50坪で時価1億円の土地に住む人の固定資産税を考えてみましょう。すると税額は年170万円。こんな金額は一般の人にはとても払えません。その意味では固定資産税制は実質的に破綻(?)しているのです。

現行の1.4%の税率が定められたのは昭和39年です。税率は今と同じ(ただし都市計画税は昭和52年から0.3%)。その頃はまだ地価が低かったため1.7%水準でよかったのでしょう(それでも税率はまだ高く、その分評価額を低くしていた)。

その後のわが国の高度経済成長とともに地価はぐんぐん上昇。税率を変えない分、税収はゲップが出る程増加していきました。そして列島改造ブームで急騰した地価をみた旧自治省は、昭和48年に住宅用地の特例(200㎡まで4分の1、それ以上は2分の1)を創設しました。

つまり本来であれば、この時にしっかり税率を引き下げておくべきだったといえましょう。しかし役所はいったん確保した高税率は手放そうとしません。代わりに特例といった「温情を与える」という体裁を取ります。さらに税は「取りやすいところから取る」という基本方針から、住宅以外の土地(業務用地等)は減額の対象外としたわけです。

旧自治省は平成6年にさらなる無茶をやりました。土地の固定資産税評価額を公示価格の7割にすることにより、その評価額を全国平均で一気に4倍にしたのです。しかしそれでも税率は変えません。

それでは税額が4倍になってしまいます。そこで負担水準や負担調整だという妙な数値を持ち出して税額を調整しました。同時に例の住宅用地の特例を4分の1から6分の1に拡大(都市計画税の3分の1はこの時新設)したわけです。

そしてその後の20年間で地価は全国的に下落を続けたものの、税額はいっこうに下がりません。むろん役所が、税率を変えないまま負担水準といった数値を操っているからです。地価が上がった昭和は税額もしっかり上げたにもかかわらずです。

いずれにしても、空き家問題で「住宅を取り壊すと税額が急増する」ことへの言及はあっても、その理由にまで踏み込んだ解説は何らなされていません。役所への批判を遠慮しているのか、そもそもそうした知識の持ち合わせがないのか...。

それらへの欲求不満が、このように長い文章になってしまった理由であるとお考え下さい。

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相続対策専門税理士:森田税務会計事務所